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2021.03.30

高松市の新型コロナワクチン接種情報を速報!

高松市の新型コロナワクチン接種情報を速報!

おはようございます。
循環器専門医の佐々木(医学博士/大阪大)です。

2021年3月29日①

新型コロナワクチンについて。

ワクチン接種が日本でも始まりましたね。今の所問題なく始まっているようですね。

新型コロナワクチンの報道に関しては、不安をあおるだけの正確ではない情報の記事や放送を見ることがあります。

すでに世界で1億人に接種されているワクチンとなりました。

私たちは正確なデータに基づいた判断をすべきだと思います。

ブログにまとめましたので、ぜひお読みくださいね。

マスクなしで飲み会も可能?新型コロナワクチンへの期待と不安

2021年3月29日②

コロナウイルスワクチン情報(高松市)について。

先日、医師会説明会がありましたのでコロナワクチン情報をお伝えします。

現時点で、高松市に4月中に割り当てられる高齢者優先接種分ワクチン量は、2回打ちとして計4500人分ということで、まずは重症化リスクの高い75歳以上の方から開始となるようです。

接種に対する接種券の発送は、

  • 75歳以上(昭和22年4月1日以前生まれ)・・・3/31(水)
  • 65歳~74歳(昭和22年4/2~昭和32年4/1生まれ)・・・4月下旬以降
  • 上記以外・・・5月以降

に予定されている、とのことです。

4月中は個別接種のみで最寄りの対応している医院などでの接種となりますが、

4/19(月)の週から予約順に接種となりますが、

1医療機関に対して1週間あたり1本(5人分)しか供給されません。

5月以降は個別接種に加え、集団接種も開始されるようです。

集団接種は土日のみで、各3時間のみの予定です。

※高松市の集団接種ワクチン会場はコチラ↓

http://www.city.takamatsu.kagawa.jp/kurashi/kenkou/iryo/shinsa/yobou_sesshu/20210118141246034.files/kaijo_shudan20210310.pdf

副反応がご心配で直接相談したい方はコチラ

香川県新型コロナワクチン専門相談コールセンター(3月12日開設)

相談内容:副反応について、専門的な内容など

電話:0570-009-550

受付時間:毎日(祝日を含む)午前9時から午後5時

妊婦さんや妊活中の方はコチラ

2021年1月27日、日本産科婦人科学会より、「COVID-19 ワクチン接種を考慮する妊婦さんならびに妊娠を希望する⽅へ」の情報が出されました。わかりやすい情報ですので、一度目を通してみても良いのではないかと思います。コチラ↓

http://www.jsog.or.jp/news/pdf/20210127_COVID19.pdf

現時点で当院が知りうるコロナワクチン情報をお伝えしました。

また新たな情報あればこちらでお伝えいたしますね!

以上

当記事の執筆者

高松ささき内科ハートクリニック 院長
医学博士/総合内科専門医/循環器専門医
日本大学医学部を卒業。国立循環器病研究センター勤務、大阪大学医学部で医学博士号を取得後、アメリカの名門ジョンズ・ホプキンズ大学付属病院での勤務等を経て現職。専門は心臓と血管。
最寄駅:JR高松駅(香川県)徒歩10分強

2021.03.29

マスクなしで飲み会も可能?新型コロナワクチンへの期待と不安

マスクなしで飲み会も可能?新型コロナワクチンへの期待と不安

 

おはようございます。
循環器専門医の佐々木(医学博士/大阪大)です。

ついに日本でも2月末から特定施設の医療従事者に対して新型コロナワクチン接種がはじまりましたね。

『ワクチンさえ打てば大勢で飲み会できるんでしょ』と考え早く打ちたいと思っている方もいれば、『なんか新しいワクチンだし副反応が怖いから打ちたくない』と思っている方もいるでしょう。

今分かっている範囲で新型コロナワクチンについて少しお話しさせていただきますね。

新型コロナのワクチンって今までと何が違うの?

今回の新型コロナウイルスのワクチン(ファイザー社・モデルナ社)は、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンと呼ばれる、新しい技術を用いています1。このワクチンでは生きたウイルスはワクチンの中には含まれていませんので、ワクチン接種でコロナに感染することありません。

mRNAとは、たんぱく質を作るための設計図です。実はこのmRNA、私たちの体の中にもすでに存在しています。私たちの体は日々、タンパク質を作り続けています。まずはタンパク質がどうやってできているのかをみていきましょう。

私たちは人によってそれぞれ異なる、DNAという遺伝子情報がつまった倉庫を持っています。そこにはたくさんの設計図が保管されています。そこから特定のタンパク質の設計図を選び、作業場へ運ぶ役割をしているのが「mRNA」で、設計図が運ばれることで、ようやく作業場でタンパク質を作ることができます。

今回のワクチンは、この「mRNA」に目をつけました。

この「mRNA」にコロナの構造の一部であるパイク蛋白(ウイルス表面のトゲトゲした突起の部分と同じタンパク質)を作るための設計図をのせて届けることで、体の中でウイルスのタンパク質の一部を作り出すことができます。実際のウイルスではないので、コロナに感染することもなく体の中で悪さをすることはありません。

体の免疫細胞がこのトゲトゲたんぱく質を認識し新型コロナウイルスが体内に侵入したと勘違いして、スパイク蛋白を持つ物質であるコロナウイルスもどきと戦い、抗体を作ります。つまり、新型コロナウイルスに対して免疫を持つことになります。mRNA 自体は急速に分解されるため、細胞の核に入ることはありません。

新型コロナのワクチンって今までと何が違うの?

あらかじめ「ウイルスもどき」を作って訓練をしておくことで、いざ本物のウイルスが体に侵入してきたときにもすぐに退治ができるのです。

なお、従来使用されていたワクチンでは、この「ウイルスもどき」を注射していたのですが、ウイルスに似たタンパク質を作るのに時間がかかったり、大量生産が難しかったりという問題がありました。

一方、今回のmRNAワクチンでは、「ウイルスもどき」の設計図だけを作って届け、実際のタンパク質の製造過程は我々の体に任せているので、ウイルスに合わせて比較的早くワクチンを作れるのです。また、少しの変異があってもすぐにそれに対応することが可能です。

「遺伝子の情報を届ける」と聞くと、なんだか自分の遺伝情報が操作されるような誤解を招いてしまうかもしれませんが、そんな心配はいりません。

人間は、mRNAの遺伝情報を自分のDNAに組み込むことはできないのです。それをするためには「逆転写酵素」という特別な仕組みが必要なのですが、人間はそれを持ち合わせていません。ですから、mRNAはタンパク質を数日作るのにだけ使われて、そのうちに破壊されてなくなってしまいます。体にずっと残り続けるわけでもないので、ご安心ください。

新型コロナワクチンの効果は?

新型コロナワクチンの効果は?

控えめに言って、どちらのワクチンも「めちゃ有効」です。

2つのmRNAワクチンは大規模なランダム化比較試験という信頼性の高い臨床研究によって、どちらもプラセボ群と比較して90%以上という非常に高い効果が示されています2

プラセボというのは偽薬のことで、2つの臨床研究では生理食塩水が注射されています。

ちなみにワクチンの予防効果90%とは、「90%の人には有効で、10%の人には効かない」または「接種した人の90%は罹らないが、10%の人は罹る」という意味ではありません。

「ワクチンを接種しなかった人の発症率よりも接種した人の発症率のほうが90%少なかった」という意味であり、言い換えると「発症リスクが、10分の1になる」とも言えます。

たとえば仮に東京で2000人感染していたとしてワクチンによって200人くらいに感染者が減るということになるので結構大きいですね。

では「ワクチンで90%以上の予防効果」というのは、他のワクチンと比べてどうなのでしょうか。

例えば、最も効果が高いワクチンの一つとしては麻疹ワクチンが挙げられ、予防効果は95%と言われています。

一方、毎年打っているインフルエンザのワクチンは、シーズンによっても異なりますが、一般的には50%程度の予防効果です。

新型コロナウイルス感染症はウイルス性呼吸器感染症であることから、当初、新型コロナワクチンもインフルエンザワクチンの予防効果に近いのではないかという予想もされており、ワクチンの承認をする機関である米国食品医薬品局(FDA)は予防効果50%以上を承認の基準にしていましたが、これを大きく上回る予防効果が示されたことになります。

すでに人口の2割がワクチンを1回接種したというイスラエルでは、接種から7日以内に感染が確認されたのが4484人、8日から14日以内が3186人だったのに対し、15日から22日経過した人では、感染者数は353人だったとのことですので、1回の接種でもある程度の効果は見込めるようです。

ワクチンの効果には、発症を防ぐ効果とは別に「重症化を防ぐ効果」も期待されます。

発症を防ぐことはできなくても、ワクチンを接種することで重症化を防げるようになれば、それだけで非常に大きな価値があります。

例えば、インフルエンザワクチンは、接種してもインフルエンザに罹ることはありますが、重症化を防ぐ効果があるとされています。

今回の2つのワクチンでは、

  • ・ファイザー/ビオンテック:重症化した10名のうち1例がワクチン接種群、9例がプラセボ群
  • ・モデルナ:重症化した30名のうち0例がワクチン接種群、30例がプラセボ群

となっており、重症化を防ぐ効果もめちゃスゴと言えます。

「ワクチンを最も必要とする人に、ワクチンが十分効果を発揮するのか」というのも重要なポイントです。

ワクチンを最も必要とする人とは、新型コロナに感染した際に重症化するリスクが高い、高齢者や基礎疾患を持つ方です。

今回のワクチンでは、新型コロナで重症化リスクが高いとされている、高齢者、基礎疾患のある人で効果があるかどうかは非常に重要なポイントですが、ファイザー/ビオンテック社のワクチンは「65歳以上のワクチン有効率94.7%」、モデルナ社のワクチンは「重症化リスク群のワクチン有効率90.9%、65歳以上のワクチン有効率86.4%」と発表されており、重症化リスクの高い人でもめちゃスゴな効果が期待できそうです。

ワクチンの安全性について

ワクチンは副作用とはいわずに副反応といいます。

FDAの報告によると、注射部の痛み(84.1%)、倦怠感(62.9%)、頭痛(55.1%)などは、プラセボ(偽薬)と比較して多く認められます。また、筋肉痛、悪寒、関節痛、38℃以上の発熱も認めます。これらの副反応は一般的に数日以内に消失し、解熱薬にも反応します。

一般的に、副反応は高齢者よりも若年者の方が多く、2回目の接種では1回目よりも多くの副反応が起こるようです。

重大な副反応として注意しないといけないことは、アナフィラキシーショックなどのアレルギー反応です。

ワクチンの安全性について

アナフィラキシーの原因と考えられているのは、両方のワクチンに含まれているポリエチレングリコール(PEG)と呼ばれる物質です3, 4

アメリカ疾病管理予防センター(CDC)はPEGやポリソルベートなどのPEG誘導体にアレルギーのある人はmRNAワクチンの接種を控えるよう推奨しています。

実際にアナフィラキシー反応がどれくらいの頻度で起こるかというと、アメリカで190万人に1回目の接種をしたところ21人にアナフィラキシー反応が起こった5、とのことです。つまりおよそ10万人に1人にアナフィラキシー反応が起こる計算になります。

インフルエンザワクチンなど一般的なワクチンのアナフィラキシー反応の頻度は「100万人に1人」程度とされていますので、それと比べると頻度は高いと言えます。

しかし、例えばペニシリンという抗生物質では5000人に1人くらいの頻度で重度のアレルギー反応が起こるのと比べると、決して頻度が高いわけではありません。

ペニシリンのアレルギー反応はよく知られていることからニュースにはなりませんが、新型コロナワクチンは世界中で注目されているため、どうしても目立ってしまいますが、冷静にリスクを評価する必要があります。

なお、この21人のアナフィラキシー反応を起こした方のうち17人はサルファ剤や卵などなんらかのアレルギーがあり、うち7人が過去にアナフィラキシーを起こしたことがあったそうです。

71%の人で接種15分以内、86%の人で接種30分以内にアナフィラキシー反応が出現しており、ワクチン接種後30分程度は慎重に様子を見た方がよいと思います。

なお、この21人のアナフィラキシー反応を起こした方々は皆さん退院されており、迅速に、適切に対応すれば命に関わることはほとんどありません。

アレルギーをお持ちの方は、接種するかどうか医師と相談して決めるようにしましょう。

現時点でワクチンの副反応の全てが分かっているわけではなく、特に長期間経過してから明らかになる副反応については今後明らかになる可能性もあります。

しかし、その他の予防接種では、重篤な副反応は通常投与後数日から数週間で起こるものであり、長期間経過してから現れる副反応は稀です。

新型コロナワクチンの効果の持続期間は?

新型コロナワクチンの臨床研究は2020年の夏以降に実施されているものですので、どれくらい効果が持続するのかについては情報がありません。

モデルナ社のワクチンの第1相試験のデータからは、中和抗体が4ヶ月間持続していますが、実際の予防効果については分かりません6

今後、追加接種が必要なのか、いつ打つべきかについても分かっていません。

これらについては、今後明らかになってくるでしょう。

新型コロナワクチンを接種すれば周りの人にうつさなくなる?

これまでに報告されているワクチン臨床試験の結果では、新型コロナの発症を防ぐ効果は示されていますが、無症候性感染(症状がないけど感染している状態)に関する情報については不足しています。

つまり、ワクチンを接種して防げるのは感染そのものではなく、症状が出ることを防げるだけで感染はしてしまうのではないかという懸念は残っています。

新型コロナウイルスに感染した人の最大40%程度は無症候性感染者とされており7、この無症候性感染者からも周囲の人に感染が広がることがあります。

そういう意味では、ワクチンが無症候性感染をも防ぐことがはっきりと分かるまではマスクの着用、3密の回避、こまめな手洗いは継続する必要があります。

しかし、良いお知らせとして米国・ファイザー社、ドイツ・ビオンテック社、イスラエル保健省(MoH:Ministry of Health)は、イスラエルでの集積データから同社が製造する新型コロナウイルスのmRNAワクチンの新型コロナウイルス感染症の発症や入院、死亡を予防する効果は、症候性の場合で少なくとも97%、無症候性の場合で94%だったことを2021年3月11日付けのプレスリリースで発表しました。

また、今回のデータ解析からワクチン接種を受けていない人は症候性の新型コロナを発症する可能性は44倍高く、新型コロナが原因で死亡する可能性は29倍高いことが示されました。

まとめ:結局、新型コロナワクチンは接種したほうがいいの?

以上が新型コロナウイルスワクチンの概要です。

皆様は接種を希望されるでしょうか?

実はすでの接種のはじまったアメリカでも医療従事者の3割?で接種を拒否しているとの報道もあります。やはりかなり急ピッチで作られたワクチンに対して不安を抱いている人々が一定数いるのだと思います。

さて、2月の下旬から日本でも特定の施設の医療従事者への接種が開始されましたね。

新型コロナワクチンは接種したほうがいいの?

国は「推奨」は出しますが「義務」ではなく、必ず接種をしなければならないわけではありません。

やはりまだまだデータが少ないこと、少なくとも日本では重症者が多くないこと、とくに若者では重症者がほとんどいないことなどからです。

しかし、今欧米を中心に接種が進んでいるようで、副反応や感染拡大への予防にどれだけ効果があるのかが恐らく明らかになってくるでしょうから、注意深く見守りたいと思っています。

最終的にワクチン接種をするかどうかは個人個人の判断に委ねられることになります。

ご自身の年齢、基礎疾患から接種によるメリットとデメリットを天秤にかけ、メリットが上回ると判断したときに接種すればいいと思います。

ちなみに私は、医療従事者ですし、若くはないこと(40代後半)、治験での有効性が高かったことから、たとえ泣くほど痛くても打ちたいと思います!

以上

当記事の執筆者

高松ささき内科ハートクリニック 院長
医学博士/総合内科専門医/循環器専門医
日本大学医学部を卒業。国立循環器病研究センター勤務、大阪大学医学部で医学博士号を取得後、アメリカの名門ジョンズ・ホプキンズ大学付属病院での勤務等を経て現職。専門は心臓と血管。
最寄駅:JR高松駅(香川県)徒歩10分強

参考文献

1.Pardi N, Weissman D et al. mRNA vaccines – a new era in vaccinology.

Nat Rev Drug Discov. 2018;17(4):261-279. doi: 10.1038/nrd.2017.243.

2.Polack FP et al.  Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine. N Engl J Med. 2020;383(27):2603-2615. doi: 10.1056/NEJMoa2034577.

3.新型コロナワクチンについてのQ&A|厚生労働省 (accessed Feb 23, 2021).

4.Aleena Banerji et al. mRNA Vaccines to Prevent COVID-19 Disease and Reported Allergic Reactions: Current Evidence and Suggested Approach. J Allergy Clin Immunol Pract. 2020;S2213-2198(20)31411-2. doi: 10.1016/j.jaip.2020.12.047.

5.CDC COVID-19 Response Team; Food and Drug Administration. Allergic Reactions Including Anaphylaxis After Receipt of the First Dose of Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine — United States, December 14–23, 2020. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2021;70(2):46-51. doi: 10.15585/mmwr.mm7002e1.

6.  Jackson LA et al. An mRNA Vaccine against SARS-CoV-2 — Preliminary Report List of authors. N Engl J Med. 2020; 383:1920-1931. doi: 10.1056/NEJMoa2022483

7.Honein MA et al. CDC COVID-19 Response Team. Summary of Guidance for Public Health Strategies to Address High Levels of Community Transmission of SARS-CoV-2 and Related Deaths, December 2020. doi: 10.15585/mmwr.mm6949e2

2021.01.04

心臓病やコロナに負けないために!心臓リハビリのススメ:筋肉編

心臓病やコロナに負けないために!心臓リハビリのススメ:筋肉編

おはようございます。
循環器専門医の佐々木(医学博士/大阪大)です。

前回は心臓リハビリの中でも一番重要な運動療法について述べましたが、今回は運動する上では欠かせない筋肉についてお話ししようと思います。筋肉は、心臓ポンプの代わりに局所から血液を心臓に戻す補助ポンプのはたらきをします。「脚あしは第二の心臓」という言葉は、以前の記事 (2020年 11月30日) でもご紹介しました」。太ももの筋肉が弱い人ほど、心血管系の死亡のリスクが高くなることも分かっています1。

悲しいことに、何もしなければ、筋肉は日々失われていきます。

ヒトの筋肉は、30代を過ぎる頃から年に1%ずつ減少していくといわれています。筋肉は何もしなければ、50代では30代の20%、70代では実に40%も失われていく計算になります。           下記のような正しい順序で行えば、80歳代でも筋肉を増やすこと(貯筋)はできます。

①適正な栄養・・・タンパク質などの、筋肉の元になる栄養補給
②レジスタンス・トレーニング(筋トレ)・・・筋肉・筋力を育てる
③有酸素運動・・・筋肉を使いこなし持久力・運動耐容能をのばす
④適度な休養・・・休んでいる間に筋肉が育つ

心血管疾患のある方にとっても運動は非常に重要です。ただし、体力のない人、筋肉が少ない人が自己流で筋トレやジョギングなどを始めても、筋肉を傷め、余計に消耗してしまいがちです。できるだけ医療者のアドバイスに従って続けることをお勧めします。

今回は特に②の筋肉・筋力を育てるにはどうすればいいかお話ししたいと思います!

健康寿命をばすには筋肉をきたえよ!

日本では高齢化社会が進んでいて、介護を必要とする高齢者の数も激増しております。心なしか、介護主治医意見書を書く枚数も最近多い気がします。

社会的にも医療経済的にも大きな問題で介護が必要な高齢者を少なくしようというのはもはや耳にタコですね。一番の問題は、自分自身が死ぬまでの人生の最終章を人に頼って自分の思うようにならない生活を送らないといけないってことですよね。

外来で医師が患者さんの採血データをみながら、「肝臓や腎臓の機能が落ちてますねぇ」、って言うことはあっても筋肉の機能が低下してますねぇとは言うことは少ないですよね。まずは健康寿命を延ばすために、いつまでもしっかり自分の足で歩けることを目標に、筋肉にもう少し気を配りましょう!っていう話をしたいと思います。

健康寿命を延ばすには筋肉をきたえよ!

老化は足から? いくつになっても大股で早く歩こう!

おしゃれは足元から、老化も足元から?

最後まで自立して自分らしい人生を生きる年月を健康寿命といいます。それを延ばすには、高齢になった時点でしっかり速く歩けることが不可欠です。

それを実証したのが、アメリカで約3万4千人を対象に21年間、追跡調査した大規模な疫学研究の中の一つのデータです2。65歳以上の方の歩行速度と生存率を追跡したものですが、それによると同じ65歳でも歩行速度によって寿命(余命)に大きな差が出ています。

たとえば、次の図のように秒速1.6mで歩く人は、秒速1.1mで歩く人より男性では12年、女性では14年も余命が違います。

老化は足から? いくつになっても大股で早く歩こう!

まさに脚力がその先の人生を変えていくといっても過言ではありません。意外なことに血圧でもなく血液検査の値でもなく、一番歩くスピードが問題なんです。大股で速く歩く人は健康寿命を延ばすことができるんです。

その理由は、脚は第2の心臓と呼ばれるように、脚の筋肉を維持することが全身の健康維持にもつながっているからです。脚の筋肉は食事と運動でいつでも取り戻せるので、しっかり対策していきたいですね。

高齢者の歩行速度と予測余命年数の関係

筋肉減少症のサルコペニアとは一体?

加齢に伴う筋肉量の減少は、1989年にRosenbergによって初めてサルコペニア (加齢性筋肉減少症) と提唱されました。ギリシヤ語で「サルコsarx」(筋肉)と「ペニアpenia」(減少)が語源の造語です。

2010年には欧州サルコペニア・ワーキンググループ(EWGSOP)が診断基準に関するコンセンサスを発表し3、サルコペニアとは「身体的な障害やQOLの低下、および死などの有害な転帰のリスクを伴うものであり、進行性および全身性の骨格筋量および筋力の低下を特徴とする症候群」と定義されました。

“死などの有害な転帰のリスクを伴う”ってなんか、ヤバそうですよね。。

筋肉量は50歳以降、特に下肢で減少し、85歳以上では20代に比べて約60%まで減ってしまいます。65歳以上の方で、筋肉の減少に伴って筋力が衰え、移動や外出、買い物などの日常生活にも支障が生じてくるのがサルコペニアです。

ダウンタウンの松ちゃんやTMレボリューションの西川君は50代なのに凄いよなぁ。。。

筋肉減少症のサルコペニアとは一体?

サルコペニアは、加齢のみが原因である一次性(原発性)サルコペニアと、加齢以外の原因が明らかある二次性サルコペニアに分類されます4

二次性サルコペニアの原因には、低活動、低栄養(エネルギーやタンパク質の摂取不足や吸収不良)、疾患(急性感染症、外傷、骨折などの急性炎症や、がん、慢性臓器不全などの慢性炎症など)が含まれます。二次性サルコペニアは年齢を問いません。

サルコペニアの診断は国際的に複数ありますが、欧米人とアジア人の骨格は異なるため、日本では2014年にアジアサルコペニア・ワーキンググループ(AWGS) 5から発表された日本人の体格でも対応できるアジア人特有の診断基準が使われることが多いです。

定義にともなって筋肉量の減少が必須条件で、それに加えて筋力の低下あるいは身体機能の低下が合併した場合、サルコペニアと診断します(下図) 。AWGSの診断基準において、骨格筋量の評価にはDXA(二重エネルギーX線吸収法)やBIA(生体電気インピーダンス法)が用いられ、四肢除脂肪量または四肢骨格筋量を測定し、身長の2乗で補正する方法がとられています。

サルコペニアの診断

2019年11月9日・10日に新潟で開催された第6回日本サルコペニア・フレイル学会大会で、本邦で初めて公表されたAWGSによる2019年度のサルコペニア基準もご紹介します。

2019年度のサルコペニア基準

2014年の診断基準との大きな変化は、かかりつけ医や地域の場で骨格筋量の評価が難しいといったこれまでの限界を踏まえた上で、下腿周径の評価で基準値よりも低値な場合や、握力・5回椅子立ち上がりテストを用いて、サルコペニアの可能性(Probable Sarcopenia)として介入が可能な点です。

正直なところ、実地臨床ではBIAがいくらとか、DXAがいくらとか言われてもピンときませんし、そもそも機械自体がなくて評価ができない施設もあるかと思います。

今回の基準では非常に身近な下腿周囲長の基準として男性34cm、女性33cmといった数値が明示されたのは非常に大きいですね。

それから握力の男性のカットオフ値が26kg→28kgへ変更となりました。ちなみに女性は18kgのままです。

さらに歩行速度は1.0m/秒に変更になりました。正直なところ0.8m/秒というのは少し遅い印象でしたし、日本では10m歩行時間を計測することが多いので「10mを10秒で歩行できれば良い」といった基準は非常にわかりやすくなりました。

この2019年版のAWGSをふまえた上で、近々サルコペニア診療ガイドラインが改訂される予定のようで注目です。

日本整形外科学会が提唱した運動器症候群:ロコモティブシンドローム(ロコモ)

運動に関わる骨や筋肉、関節や神経などを総称して運動器と言います。これらの機能が低下することによって、移動機能が低下し「要介護になる危険性が高まった状態」が運動器症候群:ロコモティブシンドローム(ロコモ)です。2007年に日本整形外科学会で提唱された概念です。

ロコモは運動器の機能低下に着目するため、筋肉や筋力に着目するサルコペニアより広く、また年齢を問わないため、より予防を重視した概念です。ロコモの原因として、加齢と運動不足による筋力の低下、骨や関節の病気などが挙げられます。骨粗鬆症や変形性膝関節症などの病気がロコモの原因になることがあります。

下の「ロコチェック」で1つでも該当する項目があれば、ロコモが始まっている可能性があります。

日本整形外科学会が提唱した運動器症候群:ロコモティブシンドローム(ロコモ)

さらに詳しい診断のためのロコモの評価には、日本整形外科学会が提案するロコモ度テスト診断基準https://locomo-joa.jp/check/judge/が使われています。これは、下肢筋力(立ち上がりテスト)、歩幅(2ステップテスト)、25項目からなる自己質問票からなる計測と集計点から判定する方法となります。気になる方は、ぜひ一度チェックしてみてください!

介護の原因となるフレイルを回避せよ!

フレイルは英語の「Frailtyフレイルティ」の日本語訳であり、本来は、虚弱・老衰・衰弱・脆弱を意味します。加齢によって運動機能や認知機能が低下した状態で、下図のように“健康”と“身体機能障害”の間に位置する概念です。

完全な身体機能障害となって要介護に至る一歩手前ですが、適切に対応することで、フレイルはまだ“健康”に戻る可能性が残されている状態でもあります。まずは、フレイルに陥らないように早期に介入すること。一時的にフレイルな状態になっても、“障害”ではなく“健康”の方に戻す努力をすること。これらが、医療や福祉に求められる重要な役割であり、医療の究極の目的である“健康寿命”をのばすカギとなります。高齢化社会の日本においては今や国家的課題でもあります。

介護の原因となるフレイルを回避せよ!

フレイルはサルコペニアやロコモのような「身体的要因」に加えて、認知症やうつなどの「精神・心理的要因」、ひとり暮らしによる孤独・閉じこもりや貧困などの「社会的要因」を包括した幅広い概念です(下図)。

3つの概念の関係

フレイルの診断方法はさまざまですが、世界的に最もよく使われているのはFriedらの方法です。

【Friedらによるフレイルの定義】 
  ①体重減少
  ②筋力低下
  ③疲労感の自覚
  ④歩行速度の低下
  ⑤活動性の低下

の5つのうち、3つ以上当てはまる状態。

以下に、各項目について詳しく述べます。

①急激な体重減少
理由もなく1 年間で 4.5 kg 以上減少することは、たいてい脂肪よりも筋肉が減っていることが多く、以前ご紹介したサルコペニアに相当するかもしれません。

②筋力(握力)低下
男性26㎏未満、女性18㎏未満が、これに相当します。握力15㎏以下になると、ペットボトルを開けるのが困難になると言われます。握力低下は、寿命の長さに直結するといわれるほど、重要な目安になります。

③易疲労性
“疲れやすさ(易疲労性)”はフレイルの典型的な症状です。

④歩行速度の低下
横断歩道は、歩行速度1.0m/sで渡り切れるように青信号の時間が設定されています。0.8m/sに満たない歩行速度では、活動能力がかなり落ちていると言えます。

⑤活動レベルの低下
今まで行っていた活動がおっくうになること、しばしば行っていた場所に行かなくなることが、フレイルを判断するきっかけとなる場合があります。

これを日本語訳したものが表1である[J-CHS(Japanese version of the Cardiovascular Health Study)基準]6 5つの項目のうち. 体重減少、筋力低下、歩行速度低下については実測が必要でカットオフ値が設けられています。

3つ以上当てはまる場合はフレイル、1~2項目当てはまる場合はフレイルの前段階であるプレフレイル(準フレイル)、1項目も当てはまらない場合は健常と診断します。

しかし、J-CHS基準は測定器を使う必要があるため、スクリーニングには向いていません。道具を必要としないスクリーニング法(簡易フレイル・インデックス)も提案されています7

下の表がそれですが、J-CHSを基に5つの項目を自己申告に基づいて判定するようになっています。J-CHS基準同様3項目以上でフレイル、1~2項目でプレフレイル(準フレイル)、0項目で健常と判定します。J-CHS基準との違いは筋力(握力)低下がなくなり、記憶低下が加わっている点です。

J-CHS基準でも簡易フレイル・インデックスにおいても、健常<プレフレイル<フレイルの順で年々、新規要介護認定率が高くなっています。

簡易フレイル・インデックス

心疾患とサルコペニア・フレイル

サルコペニアやフレイルの概念や診断基準をお話ししてきましたが、心臓との関連はどうなのでしょうか?

フレイルは高齢心血管疾患患者の25~50%にみられ、心血管疾患とフレイルとの間に関連性が示されています。1960年オランダの40~59歳の男性1088名を対象にしたコホート研究で、フレイルのない男性の28%に心血管疾患の合併を認めたのに対し、フレイルの男性の実に68%に虚血性心疾患の合併が認められています8

この研究によりフレイルと心血管疾患との関係が初めて明らかにされ、以後次々と同様の報告がなされています。2005年のWHI-OS研究では、冠動脈疾患があるとフレイルへの進展リスクが有意に高いことが報告されていますし9、2006年のHealth ABC研究では、フレイルがあると心血管疾患発症リスクとなることを初めて報告しています10

循環器疾患でサルコペニア・フレイルとの関連性が最も多く証明されている病態はなんといっても心不全でしょう。

フレイル高齢者の割合は、先のCHS基準で評価したわが国の調査では、地域在住高齢者の約10%前後と推計されています。また、フレイル高齢者は加齢とともに増加し、男性に比較し女性に多いです。223人の心不全患者(平均年齢71±14歳)での検討では、CHS基準で21%がフレイル、48%がフレイル前段階でした。フレイル合併心不全患者で有意に生存率が低かったと報告されています11

サルコペニアの割合は65~70歳で5~13%、80歳以上では11~50%と報告されています。

一方、心不全を合併したサルコペニアの頻度は200人の心不全患者(平均年齢69±10歳, NYHAⅡ~Ⅲ度)の検討において約20%と報告されています12

年齢、握力、および下腿周径から計算したサルコペニア・スコアを用いた研究では、サルコペニア合併心不全患者において、合併しない心不全患者より心不全関連イベントが有意に多かったことが報告されています13

フレイルが進むと、心血管系のリスクが高まるという報告もあります。Sergiらは、もともとはフレイルではない65~96歳の高齢者1,567人を4.4年間追跡し、その間に新たにフレイルとなった場合の心血管疾患の発症リスクを検討しました14。フレイルの徴候として、以下の5項目を挙げ、当てはまった項目の数と発症リスクの関係を調べました。

全部で551人が心血管疾患を発症し、下のグラフのように、要件がゼロ、1つ、2つと増えるごとに、心血管イベントリスクは増大しました。このように、身体的な活動の低下が心血管疾患をも引き起こすことがあります。内分泌系や自律神経系への影響も知られています。

1.エネルギー消費の低下
2. 疲弊
3.歩行速度の低下
4. 虚弱状態
5. 理由のない体重減少

心疾患イベント発生率

フレイルの悪循環

下の図は「フレイル・サイクル」と呼ばれるものです15

フレイル・サイクル

「低栄養状態の持続⇒サルコペニア(筋肉減少)が進行⇒筋力低下⇒活力や身体機能低下⇒活動度低下⇒エネルギー消費の低下⇒食欲低下⇒低栄養状態がさらに持続⇒・・・」と巡り、結果的に負のスパイラルに陥っていきます。しかし、影響はそれだけにとどまりません。

高齢化社会の到来とともに、様々な病気やけがを抱え、複雑な病態に陥りやすく、その分悪循環から抜け出すことが困難になります。活動性が低下すれば認知機能低下や抑うつをきたしやすく、さらに社会から孤立し、孤独や経済的な問題を抱えるリスクが増大します。

このように、フレイル・サイクルの背景には身体的・社会的・精神心理的要因が複雑に絡み合っているのです。

循環器疾患とサルコペニア・フレイルとの間には強い関連性があり、お互い原因にもまた結果にもなりうることを説明しました。サルコペニア・フレイルに陥らないようにするための手段として広く用いられるのが、包括的心臓リハビリテーションなのです!

おのれの筋肉を知ることから始めよう!

筋肉が大事なのは何となく分かっていただけたかと思いますが、実際の自分の筋肉ってどんな感じで、どれくらい筋肉量や筋力があるのかご存知ない方が多いと思います。ざっくりと筋力がないことは自覚されていても具体的な数字が分かると実感が湧いてきますよ!

筋肉の種類

専門的な話になりますが、図のように筋肉は3種類に分かれます。

筋肉の種類

まず、「遅筋Ⅰ」-遅い速度で収縮し、小さな力を長時間発揮しつづける、という役割です。

小さく細い運動神経で、神経の伝導が遅いけど、持久力がある。この筋肉はほとんど真っ赤です。マグロは1日中泳いでエサを食べていて、血管がすごく発達しているから赤いんです。赤身の魚がすぐ腐るのは、血管の中に色々なものが入ってくるからなのです。

二つ目が、「速筋Ⅱa」-「遅筋Ⅰ」と、次の「速筋Ⅱb」の両者の中間とお考えいただければ結構です。

三つ目が「速筋Ⅱb」。陸上競技の短距離走、100メートルのウサイン・ボルトを思い浮かべていただくといいのですが、短い時間に爆発的な力を出す筋肉を支配している運動神経があります。ロケットみたいなもので、点火するとドカッと大きな力が出るんだけど持続しない。2分もしたら、この筋肉は使い物にならなくなります。

魚で言えば、「速筋Ⅱb」は白身の王様の鯛、「遅筋Ⅰ」が赤身のマグロです。付け加えておくと、人間も動物も、生まれてきた時には、主に遺伝的な要素で筋肉のブレンド比率は決定されています。白い「Ⅱb」の筋線維が多めだと、短距離走や体操競技に適性があるわけです。

心不全になると骨格筋が萎縮し、筋線維のⅠ型線維(遅筋)が減り、 Ⅱ型線維(速筋)が増加することが示されています。特にⅡa型からより、すぐにバテてしまうⅡb型へのシフトもみられます。心リハにより、速筋Ⅱ型→遅筋Ⅰ型への筋線維型の変換効果あり 持久力がでてバテにくくなります。

筋力の評価法

筋力テストの方法には、筋収縮、重力にさからった運動および検者の徒手抵抗感を判断基準とする徒手筋力検査法がありますが、段階的な定性的評価(例:0~6段階)であるため、筋力トレーニングの目標値や効果の程度を具体的に提示できません。

臨床場面では、このような欠点を補完する目的から、簡便な握力計やハンドヘルドダイナモメーターを用いて定量化する方法が採用されています。

①握力計
グリップ幅を調節できるスメドレー式の握力計が最も利用されています(下図)。
握り幅は、第2指の近位指節関節がほぼ直角となり、すべての指がしっかりと握れるように調節します。

握力計

②等尺性膝伸展筋力
下肢筋力の粗大筋力の指標として、等尺性収縮(関節角度を固定した状態での筋収縮)による膝伸展筋力が広く採用されています。このハンドヘルドダイナモメーターを用いた測定法(下図)では、体重の影響を受けるため、本測定器で出力された筋力値を体重で除した値を解析値とします。

なお、膝伸展筋力体重比が40%を下回ると、平地歩行が困難になるなど、移動動作の自立度の予測としても応用できます。

等尺性膝伸展筋力

筋肉量の評価法

前述のAsian Working Group Sarcopenia(AWGS)によるサルコペニアの診断基準において、筋肉量測定はDXA(Dual-energy X-ray Absorptiometry:二重X線吸収法)法やBIA(BioImpedance Analysis:生体電気インピーダンス)法が使用されています。DXA 法が臨床におけるゴールドスタンダードとなっていますが、DXA 法は機械のコストが高く設置スペースも必要となります。BIA法は,簡便かつ非侵襲的であることから、広く用いられています。 

筋肉量の評価法

BIA法を用いた代表的なInBody社のInBodyをご紹介します。

筋肉組織など水分を多く含む組織は電流を通しやすいが脂肪組織など水分の少ない組織は電流を通しにくいという特性を利用し、身体に微弱な電流を流した際の電気抵抗値により体脂肪量や除脂肪体重(筋肉量)などの体組成を測定する生体電気インピーダンス(BIA)法を利用した体成分分析装置であり、これを使用することにより全身の筋肉量を間接的に測定することができます。

筋力と同様に、筋肉量の低下している心疾患患者の予後は不良であると報告されており、筋肉量を増加させることもまた、心リハの目標の一つです。InBodyを利用した筋肉量測定は、現状の筋肉量の把握、レジスタンストレーニング導入の判断、心リハの治療効果の判定のための重要な評価項目になります。

心臓ペースメーカーなどの埋め込み式医療電子機器、人工心肺のような電子生命維持装置を装着していない患者さんであれば、誰でも測定できます。

下にInBody測定後の記録用紙の例を提示します。記録用紙には、全身の筋肉量、四肢・体幹の部位別筋肉量の実測値と、予測値に対する実測値の割合(%)が表示されています。筋肉量が標準以下に該当する患者さんにはレジスタンストレーニングの導入を検討します。

InBody-Report

上記の情勢患者のSMI(Skeletal Muscle Index: 骨格筋量指標)の計算式

SMI = (右腕(2.02kg)+左腕(1.94kg)+右腕(5.20kg)+左脚(5.02kg))÷身長(1.569m)2
            = 5.76 kg/m2

AWGSの提案するサルコペニアの診断基準では、BIA法により求められた四肢の筋肉量の合計を、身長の2乗で除した値である骨格筋量指標(Skeletal muscle Mass Index: SMI)が項目の1つに含まれています。

男性:SMI < 7.0kg/m2、女性:SMI < 5.7kg/m2、であることがサルコペニアの診断基準となります。上記の記録用紙の女性患者を例にSMIを計算すると上記の式となり、SMIは5.76kg/m2であるため、患者はサルコペニアには該当しません。

筋肉づくりは男も女も黙ってレジスタンス・トレーニング

この世界の中で一番一生懸命運動しているのは誰か分かりますか?

それは、宇宙飛行士です。

なぜなら、宇宙空間というのは、究極の無重力だからです。

重力が全くない所にいるのですから、半年もいたら地上に戻ってきて立てなくなってしまいます。 こんな感じで。。。

筋肉づくりは男も女も黙ってレジスタンス・トレーニング

そうならないように、宇宙空間の中ではレジスタンス(抵抗)をかけて運動します。

そう、これがレジスタンス・トレーニングといわれるもので心リハでは有酸素運動と並んで二大柱です。

レジスタンス・トレーニング

「レジスタンス・トレーニング」は日本語訳すると「抵抗訓練」とかいわれます。くわしくいうと、ウエイトマシンやフリーウエイト、ゴムチューブ、あるいは自重などを使って筋肉に抵抗を与え、筋肥大や神経系の活性化を起こし、筋機能を高めるトレーニングです。

筋力を高める運動は、以前は筋力トレーニングいわゆる“筋トレ”と呼ばれることが多かったのですが、筋機能に筋持久力が含まれるという考え方が普及するに従って、それを総称してレジスタンス・トレーニングと呼ぶことが多くなってきました。

心臓疾患に対するレジスタンス・トレーニングは、心臓への負荷による病態の悪化を恐れ、1970年代には禁忌で1990年代に入るまでその発展は遅れました。しかし、レジスタンス・トレーニングは、筋力のみならず筋量を増加させることで基礎代謝量を増加させるため有酸素運動の効果が倍増します。

運動耐容能に直結する下肢筋力・筋肉量は心疾患患者さんでは生命予後を決める因子として確立されており16, 17、今では心疾患全般とくに心予備力の低下した重症心不全患者さんにおいて下肢のレジスタンス・トレーニングはきわめて重要な治療戦略となっています。

レジスタンス・トレーニング導入の実際

心疾患へのレジスタンス・トレーニングの導入時は専門家の監視や指導のもと、一定期間、監視型運動療法に参加して運動に慣れることが重要です。

たとえば心筋梗塞発症後は監視型運動療法へ4週間継続して参加後、最低でも発症から5週間経過していることが原則とされ、経皮的冠動脈形成術後は監視型運動療法へ2週間継続して参加後、術後3週間は経過していること(病態が安定していること)が導入の条件となります。

レジスタンス・トレーニングで最も難しいのが強度設定です。

Repetition Maximum (RM):最大反復回数という意味ですが、1RMとは最大反復回数が1回です。下の写真の人であれば、この運動が1回だけ上げるのが限界で2回目はもう上がらない状態であれば「1RM」ということになります。この運動を10回上げるのが限界で11回目は絶対上がらない状態であれば「10RM」になります。「RM」とは反復させる回数の限界値と考えてください。

レジスタンス・トレーニング導入の実際

心疾患患者にレジスタンス・トレーニングの強度を処方する際には

上肢・・・1RMの30~40%
下肢・・・1RMの50~60%

に設定するとよいといわれています18
※12~15回で軽く感じたら負荷を5%増加する(マシントレーニングでは1段階ウエイトを増やす)。

上肢は筋肉が下肢に比べて小さく血圧が上がりやすいため負荷は弱めです。
1RMが100kgの人の場合
下肢は50~60kgの負荷で開始すると良いですね。
しかし、心疾患の方で実際に1RMを求めるのはちょっと無理がありますね。

そこで、計算式を用いた外挿法で1RMを計算する。実行可能な重さ1つ決めて実施させると、計算はExRx.net というサイトで行ってくれます。

下図は50㎏の重量を8回出来た場合の結果です。1RMは62kgと計算されています。再現性・正確性については確認されています19。.

50㎏の重量を8回出来た場合の結果

1RMの求め方については下の表に示すものもあり、これを用いてもよいです。

1RMの求め方

1つの運動を8~15回反復を1セットとして、1~3セットを2~3日/週を行うことが推奨されています。特に導入時には10~15回繰り返しできるような低めの抵抗(1-RMの40%程度)から開始し、週2回の各1セットから開始することが推奨されています20

筋肉は、実は休んでいる時に育ちます。これを筋肉の超回復といって、同じ筋群のトレーニングには48時間の間隔をあけます。適度に運動した後に十分な休養を取ることにより、代謝や自律神経作用を改善し、筋肉同化作用を促進します。普段頑張りすぎる人ほど、ぜひ休養を意識するようにしましょう。

2011年にヨーロッパ心臓病学会(ESC)のPosition Statement 「Exercise training in heart failure」のように、レジスタンス・トレーニング導入時には、目的を「運動の正しい方法や感触を覚えること」として、preliminary training(予備トレーニング)から開始し、準備の段階を設けて、徐々に強度や回数を上げていくことのほうがより安全であり、実践的で、継続性も高いとされています21

まず運動の習慣をつけるなら、下の運動くらいから開始してもいいのかもしれませんね笑。

さすがに低強度すぎますが。。。

サルコペニア・フレイル高齢患者に対するレジスタンス・トレーニング

身体活動が制限されるような心疾患や心不全患者さんでは骨格筋萎縮・筋力低下および骨格筋持久力低下が合併します。心リハエントリー時に筋力や筋量を測定し、サルコペニア・フレイルの有無をきちんと評価した上で心リハプログラムを組む必要があります。

状態が安定し、サルコペニア・フレイルを伴わない場合や外来運動療法時には、有酸素運動を主体に運動療法を行います。経過中はCPXによる運動処方の見直しやサルコペニア・フレイルのモニターも行います。

一方、サルコペニア・フレイルがあれば一定期間、監視型の運動療法を行うことが困難ですので、先行して早期にレジスタンストレーニングを導入し、筋力・筋量・安定性の増加を目指した筋力トレーニングを行います。

通常の心リハプログラムは、安静が解除された後に、起こす、座る、立つ、歩くなど、重力と運動を徐々に増加させていく段階的なプログラムですが、高齢のサルコペニア・フレイル患者さんでは、歩行距離を伸ばすことに加えて、安全に立ち上がれる、バランスよく安定して立っていられることなど実際の生活に準じたリハビリテーションプログラムが重要となります。

よくベッドサイドに坐って(端坐位)、膝伸展(ひざを伸ばす)運動がよく行われますが、単に膝関節の進展を繰り返すよりも、立つ、座るなどのADL動作を繰り返した方が目的とするトレーニング効果がでやすくなります。

現在、身体的フレイルの評価で世界的に幅広く使用されているスクリーニングテストが、Short Physical Performance Battery (SPPB)です。National Institute on Aging(NIA)によって開発され、 1994 年に発表されました22。死亡率や施設入所の予測因子になると報告されています。

バランステストと4m歩行速度、椅子からの立ち上がり時間から構成されており、特別な器具を必要とせず、短時間で評価できるのがメリットです。12点満点で、0~6点を低機能、7~9点を中程度機能、10~12点を高機能とします。術後であったり、入院後のリハビリの目標は、術前や入院前のSPPB得点を獲得することです。

スクリーニングテスト

さっきのSPPBなどで定期的に評価しつつ生活動作など少しづつ動けるようになってきて、さらなる筋肥大、筋力増強を目的とした場合、高強度負荷が必要です。

しかし、とくに心不全患者さんでは高強度負荷による有害事象が高頻度で発生しており注意を要します。サルコペニアを合併した心不全患者さんでは個別的な低~中強度負荷のレジスタンス・トレーニングを全身の有酸素運動に組み合わせると、運動耐容能およびQOL改善に有効とされています。

監視下運動療法にて、1RMの20~30%あるいはBorg指数11~13(ややきつい)の範囲内で週2~3回実施し、負荷量を40~60%へ徐々に増やすことが推奨されています。

サルコペニア・フレイルの状態から、レジスタンス・トレーニングを行い、歩行可能となったらCPXで評価し運動処方を行い有酸素運動主体(+筋力トレーニング)とした運動療法を行います。

効率の良い今後期待される筋力トレーニング

低強度でもやり方自体で安全に効率よく筋量・筋肉を増やせないか、ローリスク、ハイリターンのトレーニングであればぜひ取り入れたいですよね。いくつか期待されるものがありますのでご紹介します。

電気刺激療法EMS

心疾患患者への電気刺激療法 (Electrical Muscle Stimulating: EMS)に関するレビューが報告されてきています。レビューによる適応は、一定期間の症状が安定したNYHAⅡ~Ⅳの心不全患者さんで、従来の有酸素運動やレジスタンス・トレーニングが対象となる症例でなく、筋萎縮や骨格筋異常が進行した症例で検討されています23

メタ解析の結果では、心不全患者の最大酸素摂取量、6分間歩行距離、QOL、筋力、内皮機能、および抑うつ症状を改善すると報告されており、有酸素運動が困難なサルコペニアを合併する心不全患者さんには有効な治療法になるかもしれません24

 

スロートレーニング

低強度の筋力トレーニングであっても高齢者の筋肥大に効果をおよぼすとの研究が、近年、数多く報告されるようになりました。

筋肥大の効果は力積(例:強度×回数)に影響され、強度が低くても回数を多く行うことで、高強度の筋力トレーニングと同等の効果が得られ、筋線維タイプの違いによる肥大の差も認められませんでした25

高齢者の筋タンパク質合成速度でも同様の結果が報告されており26、低強度であっても段階的に回数を増加させることによって、高齢者の筋肥大あるいは筋萎縮の抑制が期待されます。

また、低強度(50% 1RM, 8回×3セット, 2回/週, 12週間) であっても、負荷の上げ下げをそれぞれ3秒以上でゆっくり行うスロートレーニング(スロトレ)により、高齢者(59~76歳)の筋肥大効果が認められたとの報告もあります27

スロトレは血圧を上げず、動脈スティフネスを下げることが明らかになっており、血圧上昇や動脈硬化が懸念される高齢者の筋力トレーニングとして注目されています28

低強度であっても動作をゆっくり行うことで筋量・筋力増加が期待できると報告されており、心不全患者さんへも応用可能ですね.。

 

加圧トレーニング

加圧トレーニング29 は健常者やアスリートを対象に開発され、加圧しながら小さいレジスタンス・トレーニングを行うことで成長ホルモンが分泌され、運動筋に筋肥大を引き起こすとされています。

また、前負荷軽減による心臓の仕事量を軽減することや血管内皮機能の改善効果により動脈硬化性疾患にも適応があるとされ、心疾患にも応用されることが期待されています。

通常のレジスタンス・トレーニングは1RM(1回持ち上げられる最大の重さ)の60~80%程度ですが、加圧トレーニングでは1RMの20~30%(25~30回程度連続して持ち上げられる重さ)で同じ効果が得られる、と言われています。

心疾患患者に対する加圧トレーニングは、安全性や効果的な運動負荷に関して一定のコンセンサスが得られていませんが、今後詳細に検討され応用されることが期待されます。

まとめ

筋肉は成人男性で体重の約40%、成人女性で約35%を占め、体の中で最大の臓器・組織です。それにもかかわらず、今まで気に留めずに生活してきた方が多いと思います。

医療者側も検査データの異常値だけを薬物で補正する一辺倒の治療に終始する場合も多いかもしれません。もちろんそれも必要最低限しないといけないことですが、その奥に潜む原因にも目を向け、筋肉や筋力を維持することをもっともっと啓蒙していかないと高齢化社会は要介護者であふれてしまいます。

第2の心臓である筋肉がおとろえると心血管病にもなりやすく長生きできません。人生の最後まで自分の足でしっかり歩き自分らしい人生を生きる健康寿命をつかむために筋活をして貯筋に励みましょう!

当院で包括的な心臓リハビリテーションを通じて、そのお手伝いが少しでもできればとてもうれしいです!

そして、“先立つもの”がなければ、筋肉は維持できません。

次回は、筋肉をつくる源である栄養について、心リハシリーズの最終章をお話しさせていただく予定です。

以上

当記事の執筆者

高松ささき内科ハートクリニック 院長
医学博士/総合内科専門医/循環器専門医
日本大学医学部を卒業。国立循環器病研究センター勤務、大阪大学医学部で医学博士号を取得後、アメリカの名門ジョンズ・ホプキンズ大学付属病院での勤務等を経て現職。専門は心臓と血管。
最寄駅:JR高松駅(香川県)徒歩10分強

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2020.11.30

心臓病やコロナに負けないために!心臓リハビリのススメ:運動編

おはようございます。循環器専門医の佐々木(医学博士/大阪大)です。

心臓が悪いと安静にしてないとダメ、リハビリで運動なんてもってのほか、っていうのが世間一般の人のイメージだと思います。

たしかに1940年頃まで、心筋梗塞になったら心臓破裂がおきないよう組織が固くなるまでベッドで8週間安静を強いられていました。しかし、過度の安静による弊害が明らかにされるにつれて1960年代には早期離床・早期退院の考えが定着してきました。

その後、心臓手術や心臓カテーテル治療が開発され、狭心症や心筋梗塞を「根本的に」治療できるようになり、心臓リハビリテーション・プログラムが構築されてきました。

日本で心臓リハビリテーション(心リハ)が初めて保険適用になったのは1988年のことです。当時、保険適用の疾患は急性心筋梗塞のみでした。その後、心リハの有用性についてのエビデンス(科学的根拠)が蓄積するに伴い対象疾患が追加されてきました。

ですから、まだまだ歴史は浅いので認知度が低いのも無理がないかもしれませんが。。。

下図は一般健常人5716人を対象にして実施したインターネット調査1)です。

心臓リハビリテーションの社会的認知度調査

結果によると、「脳卒中・骨折手術後のリハビリテーション」を「知らない」と回答した人はわずか3%であったのに対し、「心臓リハビリテーションという言葉やその内容」については「知らない」が70%、「聞いたことはあるが内容は知らない」が23%で、「知っていると」と回答した人はわずか7%にすぎず、心臓リハビリテーションの社会的認知度がきわめて低いことが明らかになりました。

ま、まじか?驚きですね。これから普及に向けてバシバシ頑張っていきたいところです!

外来で心臓病の方のお話を聞いて、診察して、じゃ薬出しておきますね。といって診察が終了する。薬の治療が主体であることは間違いないのですが、それだけでは不十分、いえ不十分すぎるのです。

心臓病を患う方々の年齢層は中年以上、特に高齢になるほど増えていきます。年齢制限のない心臓リハビリは、運動療法を主体にした栄養や心理的な生活全般の患者指導を行うプログラムです。筋力の低下する高齢者ほど、積極的に行うことをオススメします。

かく言う私も、電車通勤、病院で心臓カテーテル治療や病棟業務を行っていた頃と比べ、今は車通勤、外来業務が主体で座っていることがほとんどです。

恥ずかしながら、1歳のこどもを抱っこして立ち上がろうとしたら足に踏ん張りがきかなくて転びそうになったり、階段で息切れがしたり、顕著に筋力・心肺機能の低下を実感しています。

40代の私でこれですから、60代、80代ともなると言うまでもありません。そして、2020年のコロナ禍での自粛太り、筋力低下の方々をたくさん見てきました(私を含めて笑)。

筋力低下、栄養の偏りは免疫力を低下し、感染症のリスクを増やします。心臓病、そしてコロナにも負けないように心リハで心臓をきたえて、心身ともに全身のメンテナンスを行いましょう!心臓リハビリテーション指導士で、循環器専門医/ 医学博士がわかりやすく説明していきますね。

心臓リハビリって? 誰に、何を、どのように?

心臓は、全身に血液を循環させるメインポンプです。心臓の病気が長引くとその影響は心臓だけにとどまらず全身に及びます。

真に調和のとれた健康なからだを取り戻すには手術やお薬だけではもはや不十分、という考え方が専門家の間ではもはや定説。適切な栄養のもと適度にからだを動かし休養をとる、という日々のライフスタイルが大変重要です。

適度な運動は健康増進のためにはもちろん、心臓血管疾患を持つ患者さんにも有益な効果をもたらすと言われています。心臓がメインポンプとすれば骨格筋は補助ポンプ。筋肉を動かすことにより局所の血流が促進され心臓に血液を返してくれます。その分、心臓の負担が軽減します。

心臓リハビリって一体?

とはいっても、自分で運動するのは不安、何に気をつけたらいいか分からない、という方は少なくないでしょう。

包括的ほうかつてき心臓リハビリテーション」とは、心臓血管系の病気にかかった患者さんのための治療プログラムのひとつです。

体力と自信を回復し、快適で質の高い家庭生活や社会生活への復帰、再発や再入院の防止などを目標としています。

心肺運動負荷試験(CPX)に基づく安全で適切な運動処方を行い、現在の体力や心機能に合わせた運動の機会を提供します。同時に、看護師や管理栄養士などによるライフスタイルや栄養状態を改善するためのカウンセリングを取り入れ、「包括的ほうかつてき」な視点で健康寿命の改善を目指します。

今回は運動編ということで、運動療法に関することを中心にお話しします。筋肉・栄養などは次回ふれたいと思います。

誰に?心臓リハビリの適応疾患は7疾患

冒頭でお話ししたように、日本で心リハが初めて保険適用になったのは1988年のことです。

当時、保険適用の疾患は急性心筋梗塞のみでした。その後、心リハの有用性についてのエビデンスが蓄積するに伴い対象疾患が追加され、2020年11月現在以下の7つが心リハの対象疾患となっています。

心大血管リハビリテーションの対象疾患

何を?どのように?

下の図は国立循環器病研究センターの心リハプログラムの概要で理想的なものになっています。

心血管病で緊急で入院になった患者さんに対し、カテーテル治療や薬物治療などで状態が安定した後、心リハのオーダーが出されます。

そして、心リハ担当医や看護師のほか、理学療法士、栄養士、薬剤師などの多職種で患者の生活機能評価、心リハ計画を分担し、説明し同意を得た上でプログラム内容を決定します(急性期心リハ)。

心リハの目的はQOL(生活の質)の改善と心血管疾患の再発や悪化を予防することですので、心血管病の重症度や治療状況、ADL(日常生活動作)や運動耐容能のほか、栄養状態、嗜好品、鬱・認知症、仕事や家庭環境など、疾患の管理に影響するような項目を評価し、患者の希望を確認した上で具体的な運動指導・生活指導を行います。

退院後も外来心リハを継続し、運動負荷試験や基礎代謝量の測定、体成分析検査などの検査も定期的に行い、指導の効果についても1~3か月ごとに評価していきます(回復期心リハ)。

心リハは、1単位=20分間、1日3単位を基本とし、発症日あるいはリハ開始日から150日間の算定が認められています。また、すべての疾患について、月13単位までであれば150日を超えて継続可能です(維持期心リハ)。

このように、維持期にも算定が認められているのは心リハの特徴の一つです。

保険診療ですので、その方の保険の種類にもよりますが、1回1時間あたり、500~2000円くらいです。医療スタッフの監視下でのリハビリでいろんな指導も受けられると考えると安いもんですね。

心リハは、手術やカテーテル治療のような1回の治療で大きな改善が得られるものではありませんが、継続的に行うことでその効果が現れてきます。こうした心リハの特性をふまえ算定期間が定められているようです。

ただし、多くの医療機関では維持期の患者を受け入れるだけの枠がないことが多く、維持期の患者さんの多くは、心リハを続けることができていないのが現状です。

あなたの運動処方箋を作成します!

じゃあ、実際にはどのように、どんな運動をすればいいのでしょうか?

一般的には、『1日20~60分間の有酸素運動』です。これは健康な方でも生活習慣病や心血管病をすでに発症している方でも基本は同じです。下のグラフのように、運動の強さは強すぎてもリスクがありますし、弱すぎても効果がなくなってしまいます。

あなたの運動処方箋を作成します!

ヒトのからだでは、活動に必要なエネルギー(ATP:アデノシン三リン酸)を作る場合、有酸素性の代謝と無酸素性の代謝が行われます。有酸素運動や無酸素運動という言葉を耳にすることが多いですが、これらは酸素を吸う吸わないということではありません。

簡単にいえば、酸素を使ってエネルギーを作るか、作らないかが、有酸素運動と無酸素運動の違いとなります。

有酸素運動と無酸素運動の境目、嫌気性代謝閾値ATとは?

無酸素運動では、“酸素を使わない代謝”である嫌気性代謝をおこないます。これは、糖(グルコース)が分解され乳酸が産生されるときにエネルギーが生み出される経路です。

この嫌気性代謝が加わり始める時点が嫌気性けんきせい代謝たいしゃ閾値いきちといい、英語ではAnearobic Threshold (AT)といいます2

聞き慣れなくて、なんじゃそら?ってなりますよね。でも、AT(エイティー)、AT(エイティー)と言って、よく使うメチャ大事な言葉なので覚えておきましょう。

下の図のようにATを超えるキツい運動は、乳酸が蓄積し血液が酸性になり、血圧も心拍数も急激に上昇し始めるので、心臓や血管への負担が強くなり不整脈などを引き起こすリスクが上昇します。有酸素運動と無酸素運動の境目(AT)は若い人とお年寄りなど一人ひとりで明らかに異なります。

運動強度と乳酸の関係

安心で最適な運動強度が数字で分かる心肺運動負荷試験CPXとは?

じゃあ、そのATってどうやって決めるのかというと、

心肺運動負荷試験(CPX:CardioPulmonary eXercise testing)という検査を行うことで、その境目を数字として評価でき、患者さん一人ひとりにとって安全に最適な運動強度を決定することができます。

実際には下の写真のように、口と鼻をすっぽり覆うマスクをつけて呼気ガスを分析しながら徐々に自転車のペダルを重くしていき、呼気ガスの酸素と二酸化炭素の比率を測定することで有酸素運動になっている範囲がわかるというものです。

心肺運動負荷試験CPX

下のグラフは、CPXの一般的な波形です。運動負荷(赤茶)心拍数(水色)、酸素摂取量(黒)の時間変化を表します。

御覧の通り、運動負荷と心拍数、および酸素摂取量はお互い関連しています。 運動負荷が上がると、心拍数、および酸素摂取量も増加します。

ATを過ぎると、呼気に含まれる二酸化炭素の量が多くなり、そこから運動強度が上がると血圧や心拍数の増加が著しくなり、心臓・血管系の負担や呼吸苦が強くなってきます。

さらに運動を続けると、これ以上運動が継続できない限界点がおとずれますが、その時点で体内に取り込める酸素量は最高酸素摂取量(Peak VO2)と呼ばれます。CPXでは、安全に運動ができる嫌気性代謝閾値AT、最大の運動強度である最高酸素摂取量Peak VO2の両方を求めることができます。

機会があれば詳しく説明しますが、これ以外にもCPXのパラメーターはたくさんあり、心不全における重症度や生命予後(どれだけ長生きできるか)が予測できたりもします。CPXは、安全な運動の強さ、運動耐容能、そして生命予後まで推測できる大変有用なマシンです!

CPXによる運動処方で有効で安全な日常生活を!

測定波形からATは26.1ml/kg/分で、このときの心拍数は146回/分でした。

エネルギー代謝の指標であるMETs(メッツ)は、Metabolic Equivalents(代謝当量)の略で、アメリカスポーツ医学会が発表しています。安静時を「1.0 METs」とし、その何倍のエネルギーを消費するかで、強度を数値化します。

METs(メッツ)の計算方法は簡単で、安静時における酸素摂取量3.5ml/kg/分が1METsになります。先ほどのAT26.1ml/kg/分であれば、3.5で割ると7.46METsとなります。

ちなみに、このMETsが便利なのはエネルギー消費量(カロリー)を簡単に計算できるという点です。

消費カロリー(kcal) = METs × 時間 × 体重(kg)

例) 散歩=3METsの運動を体重60kgの人が1時間行う

   3(METs) × 1(時間) × 60(kg) = 180(kcal)

何度も言いますがATを超えない範囲の運動は有酸素運動となり、エネルギー効率がよくバテにくいです。この求められたMETsを参考に、どれくらいの日常生活なら安全に行えるのか、どのスポーツなら許可できるのか、などもお伝えできます。

自転車のペダル運動器であるエルゴメーターを用いてCPXをおこなった場合、ATや最大運動時点におけるワット数(運動強度)が算出されます。

しかし、負荷量に対して体が反応するまでには時間差が生じるため、AT時点でのワット数で運動すると負荷がかかりすぎてしまう可能性があります。そのため、ATの1分前のワット数を処方するのが一般的です。

運動中に自分で脈をとることができる方の場合、ちょうどいい脈拍になっているかを確認することが有効です。たとえば、先ほどのケースではATにおける心拍数が146回/分ですから、「140回から150回の間におさまるよう調整しましょう」とご指導させていただきます。

最近ではApple watchなどの時計型のウエアラブル端末、などを使用する方も多く、運動負荷量の自己管理をする上で、目安となる脈拍数を知っておくことはとても大切です。

たとえば、AT1分前のMETsが5METsの場合では、シャベルで雪かきなどの動作では息切れが出てしまいます。一方、軽い農作業やゆっくり階段を上り下りするのは問題なくできるでしょう。

続ける時間によっても負荷が変わりますので、長く続けて息切れが出た場合は、5分程度休憩して呼吸が乱れないよう注意してもらいます。下に目安となるMETs換算表をお示しします。

METs換算表

安全で一人ひとりにあった適切な運動強度を決定する場合、CPXに勝る検査はないといってもよいのですが、なかなか時間がなくて検査を受けに行く時間をとれない方には、以下の目安で行います。

CPXがない場合の運動処方の決め方

①自覚症状:ボルグスケール 12~13

下のボルグスケール3の12~13「ややきつい」はおおよそATレベルの運動強度に相当すると考えられます。「ややきつい」とは「会話しながらだと少し息が上がる」程度と説明することが多いです。

ボルグスケール 12~13

②安静時心拍数 + 20回/分

心拍数については、あくまで補助的な目安です。アスリートや高齢の方、β遮断薬などの薬剤を服用中で心拍数が上がりにくい方は、負荷が強くなりすぎることもありますので、自覚症状を中心に考えます。

③カルボーネン式を用いる方法

運動負荷試験ができない時に、心拍数の目安として簡易的に用います4

(220-年齢―安静時心拍数)× k +安静時心拍数 (k=0.3~0.7)
予測最大心拍数

心拍数の上昇に問題がない方であれば、k=0.5~0.6がおおよそATレベルの心拍数となります。β遮断薬などの心拍数をおさえる薬剤を服用中の方は、k=0.3程度がよいでしょう。

たとえば、40歳で安静時心拍数が80回/分という場合、

(220―40-80)× 0.5~0.6 +80 = 130~140回/分

と計算され、心拍数が130~140回/分となるような速さで20~60分間歩く、もしくはジョギングする、とういうのがちょうどいい運動になります。

ATに相当する運動処方をしていたとしても患者さんの状態はその都度変化します。

寝不足の日もあれば、朝食を食べずにリハ室に来ているかもしれません。同じ人でもその日その日で違うこともありますので、運動処方の数字にこだわり過ぎずに、患者さんの様子を十分観察することがとても大切です。

やらなきゃ絶対に損!心臓リハビリの効果とは?

今までさんざん心リハについて説明してきましたが、効果がなければやってられませんよね。

みなさんは心血管病に対する心リハの効果についてどれくらいご存知でしょうか?

適度な運動は健康増進のためにはもちろん、心臓血管疾患を持つ患者さんにも有益な効果をもたらすと言われています。

心臓がメインポンプとすれば骨格筋は補助ポンプ。筋肉を動かすことにより局所の血流が促進され心臓に血液を返してくれます。その分、心臓の負担が軽減します。車でいうと、2WDから4WDになるようなものですね。

多くの臨床試験で効果が証明

心臓リハビリテーションの効果は、これまで冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞など)のみならず慢性心不全、開心術後、末梢血管疾患において多岐にわたり証明されています。

したがって、現状での心リハは心血管疾患患者の運動耐容能の改善のみならず、長期予後改善の治療法としてガイドラインのクラスⅠ(実施すべき治療)に強く推奨されています5

運動療法のおもな効果とエビデンスレベル(科学的根拠)について下記の表に示します。

運動療法のおもな効果とエビデンスレベル(科学的根拠):エビデンスレベルA

具体的には、虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症)の患者さんが心臓リハビリを行うことにより、行わなかった場合に比べて心血管病による死亡率が26%低下し、入院のリスクが18%低下します6

この解析手法は、メタ解析といって、複数の研究結果や研究データを計算してまとめる手法のことです。柔道でいう「合わせ技1本」みたいなものですね。診療ガイドラインでは、メタ解析に基づくエビデンス(科学的根拠)が、一番エビデンスレベルが高いとされています。

エビデンスレベルB

エビデンスレベルC

また心不全の患者さんが心臓リハビリを行うことにより、行わない場合に比べてあらゆる入院が25%減少し、心不全による入院が39%減少することが証明されています7。これもエビデンスレベルの高いメタ解析によるものです。

冠動脈疾患患者における心臓リハビリテーションによる予後改善効果

そして、心リハの回数に関する報告もあります。虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)治療後に心リハを行った回数と死亡率をみたものです。やればやるほど、死亡率が低下することが示されています8

心不全に対する心リハの効果のメタ解析

そして、同じ論文の中で、心リハをやればやるほど心筋梗塞の発症率も低下することが示されています8。毎日でも良いですが、現実的には週に3回前後できれば良いかもしれません。

心リハ施行回数と死亡率

 

心リハ施行回数と心筋梗塞 発症率

とにかく心臓リハビリに参加することにより、生活の質(Quality of life)が改善し、毎日をより快適に過ごすことができるようになります。良いことづくめで、やらなきゃ絶対に損ですよ!!

足は第二の心臓!骨格筋ポンプで2WDから4WDへ

足は第二の心臓!骨格筋ポンプで2WDから4WDへ

「ふくらはぎは第二の心臓」ということを聞いたことがありますか?

血液を回すポンプは心臓だけではありません。実は「骨格筋」も、血液を循環させるポンプのはたらきを担っています。

静脈は「静かな脈」と書くように、心臓の影響をほとんど受けません。静脈血は筋肉の間を走っており、筋肉を収縮させると心臓まで血液をくみ上げて戻してくれます(静脈還流といいます)。

血液は重力の影響を受け下肢にたまりやすくなりますが、歩いたり運動することで足の裏や足首・ふくらはぎなど、筋肉の収縮が起こり、血液を上に押し上げてくれます。

このような循環は静脈に弁があり下に逆流しないことで成り立っています。この生理学的現象を「骨格筋ポンプ」と呼び、下肢が「心臓の補助ポンプ(第二の心臓)」と呼ばれる理由です9

1920年にデンマークの生物学者アウグスト・クローグは、下肢骨格筋に血流制御機能があることを発見し、骨格筋にポンプ作用があることを明らかにしました。この業績により、彼は1920年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

こうした筋肉のポンプをフルに活用することにより、心臓のポンプが弱い人でも必要な血液の循環を保つことができます。筋肉についての詳細は、次回の筋肉・栄養編で説明させていただきます。

心臓病の人は安静を保つべし、と言われていたのは昔のこと。最近では心疾患の人に対しても、積極的に運動療法が推奨されています。

むしろ、長い期間安静にしすぎると、筋力低下、呼吸機能低下、起立性低血圧(立ちくらみ・ふらつき)、骨粗鬆症など全身の調節機構まで異常をきたし、かえって心血管リスクが上がるとさえ言われます。

適度な運動を行って心臓を助けることにより、心臓を長持ちさせることができるのです。

心臓にとって効果的な運動は、「骨格筋のポンプ機能をしっかり使って心臓に血液を返していく」レベルのもの。ただし、ご自身で「適度な運動」を推し量るのは、実際には容易なことではありません。

「私はいつも家事で動き回っているわ」
「仕事で事務所内を歩き回っているから」

という方は少なからずおられます。ただし、その運動が健康にとって有益なものかというと、必ずしもそうではない場合があります。

「筋肉をしっかり収縮する」ことなく簡単にできてしまうようなルーチンワークであれば、心臓に血液を返していく効果につながりません。逆に、強すぎる運動は筋肉や心臓に度の負荷を与え、組織を壊してしまうこともあります。

通常の心疾患をお持ちの方や著しい肥満ないし虚弱の方などの中には必ずしも一般的な運動の目安が妥当でない場合があります。このような方には運動を始める前に医療機関で、CPXなどによる最適な運動強度の評価をお勧めしています。

WITHコロナでの心リハ

この記事を書いている2020年12月現在、新型コロナウイルス感染拡大は全世界に及んでおりその収束の見通しは立っていません。

日本では都市部を中心として感染者が急増しており、政府は2020年4月7日に東京など7都府県を対象に緊急事態宣言を発出しました。

4月17日には全国都道府県に緊急事態宣言の対象が拡大。それとともに、これまでの宣言の対象であった7都府県に6つの道府県を加えた13都道府県については、とくに重点的に感染拡大防止の取り組みを進めていくべき「特定警戒都道府県」と位置付けられました。

その甲斐もあって、5~6月頃には感染患者数は減りましたが、7月~8月頃には第二波が起こります。自粛疲れもあり、移動能力のある20~30代前後の若い人中心の感染者が増えました。検査体制が整備され、軽症者を含めて診断されるようになったこともあるかと思います。

そして、寒くなってきたのとGo To Travelキャンペーンでの移動などにより、2020年12月現在、第三波が起こってきています。

2020年12月現在、第三波

心リハは心筋梗塞や心不全などの心疾患患者にとってとても大切な治療であることをこれまで語ってきました。

『新型コロナ第三波がきてるけど、心疾患患者にとって重要な心リハを中止しても大丈夫?』

という疑問を持つ皆様とともに、国内の心リハの状況と対策について考えてみたいと思います。

心リハ学会の指針は?

2020年7月9日に日本心臓リハビリテーション学会より、“COVID19 に対する心臓リハビリテーション指針”の改訂(第2報)が公開されました。

4月16日の第1報との変更点として、非流行地域での心リハ実施が過度な自粛にならないよう、適切な心リハの提供を再開する上で、患者と医療従事者の安全を確保することが目的とされています。

1)入院中の心リハは自粛せず、適切に導入・継続する

2)外来の心リハは中止し、自宅での在宅リハを推奨する
 →非流行地域では下記の入院心リハの基準をクリアできる範囲で再開

3)運動処方目的の心肺運動負荷試験(CPX)は実施しない
 →非流行地域では、徐々に再開可能、適切な感染予防策を講じた上で実施

入院患者に心リハを行う場合の注意点は以下になります。

    • ✓発熱、呼吸器症状、下痢、嗅覚・臭覚異常を含む体調確認を十分に問診する
    • ✓同一フロアに密集しないように時間帯を分けるなど工夫する
    • ✓エルゴメータやトレッドミルなどの機器の間隔を 2m 以上空ける
    • ✓使用機器については、使用毎に適切な方法で消毒を行う
    • ✓患者と医療従事者のサージカルマスク装着
    • ✓患者と医療従事者の手指消毒
    • ✓高強度運動は避ける
    • ✓開窓や空調による室内換気
    • ✓患者と患者の間隔は、できるだけ 2m(最低 1m)空ける
    • ✓会話をする際は、可能な限り真正面を避ける

 

上記は、第三波が来る前の指針ですので、もう少し現状を踏まえて対応する必要があるかもしれません。今後の感染者の動向により、流行地域か非流行地域かで柔軟に対応する必要がありそうです。

遠隔医療での心リハの現状

心リハの先進国であるヨーロッパやアメリカでは、日本よりも感染者数が桁違いに多く、状況が深刻です。

2020年4月にヨーロッパ心臓病学会(ESC)は、Recommendations on how to provide cardiac rehabilitation activities during the COVID-19 pandemic(URLリンク先:https://www.escardio.org/Education/Practice-Tools/CVD-prevention-toolbox/recommendations-on-how-to-provide-cardiac-rehabilitation-activities-during-the-c)を公開しました。

その中に「包括的心リハのすべての要素を含む電話での遠隔リハ(telerehabilitation programmers:テレリハプログラム)を実施する」 が示されており、とくに心リハを閉じている施設には開始検討を推奨しています。

米国では、2020年3月にAACVPR(American Association of Cardiovascular and Pulmonary Rehabilitation)が公表した‘AACVPR Statement on COVID-19’があります。外来の心リハが実施できない患者には有効な在宅運動指導を検討することが示されています。

では、テレリハ、つまり、「電話やメール、アプリなどを活用した遠隔リハ」は、どのように実践すればいいでしょうか。対象者にはご高齢の方も多く、なかなか難しいことが予想されます。患者さんに心リハスタッフが電話して、『運動しましょうね』と言えばそれだけでいいのでしょうか。

心臓病の患者さんには、運動をする前には必ずメディカル・チェックが必要です。テレリハであっても、そのチェックは省けません。さらに、テレリハを行うにあたって、スタッフ間での対応も統一しないといけません。いろいろな施設で「テレリハプログラム」を作成し、運用が開始されています。

運動内容についても、具体的な指導が必要です。各心リハ施設で独自の運動プログラムがホームページ上で公開されていますので、チェックしてみてください。当院でも現在、準備中です。

今回のコロナ禍で、さまざまな企業・病院で、テレワークやリモートワークなどの新しい働き方が普及されてきました。医師の私も研究会や学会もWeb参加ができるようになり、時間やお金を節約しながら、多くの演題を聴くことができメリットを感じています。

通常診療では、電話診療やオンライン診療が始まっていますが、とくにオンライン診療は予想外に普及していません。通常の診療ですらそんな感じですから、心リハにおいてハードルはかなり高いと感じています。

今後の遠隔リハの普及には、診療報酬制度の見直しや患者さんのモチベーションの維持などを考慮したシステム作りが必要と思われます。

まとめ

心臓リハビリテーション、さらに包括的ほうかつてき心臓リハビリテーションは、こんなにも効果があるのに、残念ながら一般の方にあまり認知されていません。我々循環器医の怠慢の結果かもしれませんので、啓蒙活動をもう少し頑張ります。

「包括的(ほう・かつ・てき)」

という言葉が若干分かりにくいですが、心臓に良いことを「パッケージ」にしたリハビリ・プランと考えると少しは分かりやすいでしょうか。

保険診療で比較的安価な値段で、医師、看護師、理学療法士、管理栄養士、薬剤師などなど、多方面から心臓病のアドバイスや指導を受けながら安心・安全に有効な運動や筋力トレーニングができるのです。

心リハは、心血管カテーテル治療や手術のように1回のみで劇的な効果があるわけではありませんが、繰り返し継続することで、同等あるいはそれを上回る大きな予後改善効果をもたらす治療であって、虚血性心疾患や慢性心不全の診療ガイドラインでクラスⅠ(実施すべき治療)として強く推奨されている紛れもない心血管治療法の1つです。

対象疾患に該当するにもかかわらず、心リハをされてない方は、質の良い生活、入院リスクの低下や健康長寿の機会を自ら放棄していることになります。

循環器専門医からエビデンス(科学的根拠)のある治療薬を処方してもらっているけど、運動や栄養には無頓着、薬飲んどきゃいいんでしょって方も少なからずいらっしゃいます。

心リハの効果は、多くの薬剤(抗血小板薬・抗凝固薬、降圧剤、糖尿病薬、高脂血症薬、抗不整脈薬、向精神薬・睡眠薬など)の効果をひとまとめにしたようなものと言えますが、薬剤のような副作用もありません。薬を少しでも減らしたいと思っている方は、ぜひ最寄りの心リハ施設の門をたたきましょう。

新型コロナ感染症の第三波が起きていますが、上記の日本心臓リハビリテーション学会の指針に従い、過度な自粛にならないよう流行地と非流行地で柔軟に対応し、入院・外来・在宅・遠隔での心リハの継続が望まれます。

一刻も早いコロナの終息を祈りつつ、次回は、心リハ【筋肉・栄養編】についてお伝えできれば幸いです。

以上

当記事の執筆者

高松ささき内科ハートクリニック 院長
医学博士/総合内科専門医/循環器専門医
日本大学医学部を卒業。国立循環器病研究センター勤務、大阪大学医学部で医学博士号を取得後、アメリカの名門ジョンズ・ホプキンズ大学付属病院での勤務等を経て現職。専門は心臓と血管。
最寄駅:JR高松駅(香川県)徒歩10分強

参考文献

    1. 熊坂礼音、後藤葉一など:心臓リハビリテーションの認知度に関する一般人・虚血性心疾患患者対象大規模認知度調査. 心臓リハビリテーション.2016;22:170-183

    2. Wasserman K et al.Anaerobic threshold and respiratory gas exchange during exercise.J Appl Physiol.1973;35:236-243.

    3. Karvonen MJ et al. The effects of training on heart rate: a longitudinal study.Ann Med Exp Biol Fenn. 1957;35:307-315.

    4. Borg G et al. Perceived exertion as an indicator of somatic stress. Scand J Rehabil Med. 1970;2:92-98.

    5. 日本循環器学会 ほか 編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2011年度合同研究班報告) -心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン (2012年改訂版)

    6. Anderson L, Taylor RS et al. Exercise-based cardiac rehabilitation for coronary heart disease: Cochrane Systematic review and meta-analysis. J Am Coll Cardiol. 2016;67:1-12.Sagar VA, Taylor RS et al. Exercise-based rehabilitation for heart failure:systematic

    7. review and meta-analysis. Open Heart. 2015;2:e000163

    8. Bradley G. Hammill et al. Circulation. 2010;121:63-70.

    9. Brooks GA et al. Exercise Physiology. Human Bioenergetics and its Applications, 3rd ed, 2000

    2020.10.28

    先天性心疾患とは?生まれつきの心臓病がありますと言われたら

    こんにちは。循環器専門医の佐々木(医学博士/大阪大)です。

    「赤ちゃんに生まれつきの心臓病があります。」っと言われる確率って、どれくらいか想像できますか?

    実は、正常妊娠で生まれる赤ちゃんの100人に1人なんです1。意外に多いと思いませんか? 現在、日本では1年間に約100万人の赤ちゃんが生まれますが、そのうち約1万人の赤ちゃんが心臓に問題があって生まれてくることになります。

    原因の90%以上がいろいろな環境因子が組み合わされた結果でよく分からないことが多いです。しかし、風疹ウイルスなどの感染症、喫煙・過度の飲酒、害のある薬の服用は原因として頻度が高く予防できるものですので、妊活前には十分注意しておいてくださいね。

    そして原因が分からずお子様が心臓病にかかられてしまったら、「なぜ、私の赤ちゃんが、私だけが…」「この先どう育てていけば良いのだろう…」といった悲しみ、不安、混乱でいっぱいになるかもしれません。先天性心疾患になったのは「誰のせいでもない」のです。

    最も大切なことは、正常な心臓と大血管の構造を理解し、お子さんの心臓のどこが異常なのかを理解することが大切です。みなさんの心が少しでも強くなり、少しでも心が和らぎ、前に進む一助になれるよう循環器専門医/医学博士の私がくわしく説明します。

    死ぬまで動き続ける心臓、どんな形でどんな働きをしているの?

    心臓はポンプの役割

    先天性心疾患を理解するために、心臓の機能を簡単におさらいしてみましょう。

    心臓は全身に血液を送るポンプのようなものです。つねに拍動し、全身に血液をめぐらせています。心臓には心房と心室と呼ばれる部屋が左右1つずつあり、合計4つの部屋があります。

    それぞれ右心房右心室左心房左心室と呼ばれています。

    図1:正常の心臓の構造と血液の流れ図1:正常の心臓の構造と血液の流れ

     

    それぞれの部屋の間には、弁と呼ばれるドアのようなものがあり、血液が逆流しないようになっています。全身から返ってくる酸素の少ない赤黒い静脈の血液は、まず右心房に集められ、三尖弁(さんせんべん)という弁を経て右心室を出て、肺に流れていきます。

    そして、肺で酸素をたくさん取り入れ、真っ赤になった動脈血は、左心房に入り、僧帽弁という弁を通過して左心室に入ります。左心室は力強く収縮し、動脈の血液を全身の隅々まで送り出します。

    心臓はこの一連の流れを絶えず繰り返すためにポンプ役として拍動し続けています。

    血液は、

    全身→大静脈→右心房→三尖弁→右心室→肺動脈弁→肺動脈→肺(ここで二酸化炭素と酸素が交換され、酸素の多い血液に)→肺静脈→左心房→僧帽弁→左心室→大動脈弁→大動脈→全身 (くり返し)

    と流れていきます。

    大人の心臓の大きさは、自分のにぎり拳くらいで、生後間もない赤ちゃんの心臓の大きさは大きないちごとかピンポン玉くらいとされています。

    大人の心臓の大きさは、自分のにぎり拳くらいで、生後間もない赤ちゃんの心臓の大きさは大きないちごとかピンポン玉くらい

    生まれつきの心臓や血管の異常、先天性心疾患とは?

    生まれつき心臓や血管の形が正常とはちがう病気をまとめて、医学用語では先天性せんてんせいしん疾患しっかんといいます。「先天性」が「生まれつき」という意味です。

    たとえば、心臓の右と左を隔てている壁に穴があいていたり、血管や弁が狭く血液の通りが悪くなっていたり、心臓の部屋の数が少なかったりするような病気、これが先天性心疾患です。

    遺伝子異常や母体側の問題も、先天性心疾患の原因とは?

    心臓は胎生20日から作られはじめ、胎生50日頃に完成します。この間に心臓の細胞内では遺伝子に書かれた設計図に基づいて出来上がりますが、少しでも赤ちゃんの遺伝子に異常があると、心臓や血管は不完全な形になってしまい、多くの先天性心疾患の原因となっています。

    また、お母さん側の要因、つまりお母さんがたばこを吸ったり、お酒をたくさん飲んだり、害のある薬を服用したり、風疹などのウイルスに感染したりすると、同じように先天性心疾患が発症することがあります。

    原因としては、赤ちゃん側の要因と母親側の要因があります。

    赤ちゃん側:遺伝子異常、染色体異常

    母親側:母体の病気、風疹ウイルスなど、喫煙、過度の飲酒、害のある薬の服用

    しかし、原因は多くの因子が複雑に影響して起こるとされており、上述のように特定できることは少なく、90%以上がいろいろな環境因子が組み合わされた結果によるといわれています。多くの場合、原因は不明と考えてよいでしょう。

    50種類以上もある先天性心疾患の種類とそれぞれの特徴

    先天性心疾患は主要なものだけで50種類くらいあり、大きく非チアノーゼ性心疾患チアノーゼ性心疾患に分けられます。

    チアノーゼ(Zyanose)はドイツ語で意味は、『血液中の酸素濃度が低下し、顔色や全身の色が悪く、特に唇や指先の色が青紫色になる症状』のことで、英語では【cyanosis】といいます。勘の良い方ならお気づきかも知れませんが、プリンターの青インクの『シアン(Cyan)』と同じ語源ですね。

    チアノーゼ(Zyanose)

    先天性心疾患は、心臓や血管の形に異常(心臓に穴が開いていたり、動脈と静脈の間によこ道があるなど)があり、動脈の中に酸素の少ない静脈の血液が混じるので動脈の血液が赤黒くなり顔色や唇や指先がむらさき色になってしまうのです。

    非チアノーゼ性心疾患

    上述のチアノーゼにはならないのですが、心臓に穴やよこ道があり、大量の血液が心臓と肺の間を空回りするために心臓や肺に負担のかかるものです。先天性心疾患の約6~7割くらいで、代表的な病気として、

    • ✓ボックス心室中隔欠損症 34.2 %
    • ✓心房中隔欠損症 19.4 %
    • ✓房室中隔欠損症(心内膜欠損症) 2.7 %
    • ✓動脈管開存症 10.3 %

    があり、この4つの共通点は肺への血流量が増えることで、非チアノーゼ性心疾患のほとんどを占めます。 

    赤ちゃんは呼吸が速く苦しそうになり、汗をたくさんかき、ミルクがあまり飲めず、体重が増えない、などの症状が出てきます。風邪を引くと呼吸状態がさらに悪くなることがあります。

    比較的軽症であることが多い非チアノーゼ性心疾患から説明していきます。

    先天性心疾患の中でもっとも多い心室中隔欠損症 (Ventricular Septal Defect: VSD)

    左心室と右心室を隔てている壁、心室中隔に穴が開いており、中隔がないことから心室中隔欠損症とよばれています。胎生期にふつうはくっつき合うところがくっつかなかったことで起こります。

    図2のように、心室中隔の穴を通じて、圧の高い左心室から圧の低い右心室に血液が流れ込み(ひだりみぎ短絡たんらくといいます)、右心室の血流量が増えます。増えた分の血流はすべて肺に流れ肺血流が増えます。

    図2:心室中隔欠損症のメカニズム図2:心室中隔欠損症のメカニズム

     

    肺への血流はそのまま左心房から左心室へ流れ、左心室への血流量が増え、左心室の拡大をきたし、だんだん弱ってくると心不全を起こします。

    先天性心疾患のなかでもっとも多い病気で、30%を占めるといわれています3

    穴が小さいものでは、自然に閉じるものもあります。穴の大きさが大きく、心臓や肺に負担のかかるものは、一般的に手術となります。肺への負担が大きい場合、時間がたつと「肺高血圧」といって、肺の血管が痛んだ状態になり、場合によっては手術ができないようになることもあります。

    また、穴の場所(図3)によっては、大動脈弁の変形や、閉鎖不全をおこすこともあり、血液の漏れの量にかかわらず、手術になることもあります。

     

    図3:あなの開いている場所による分類図3:あなの開いている場所による分類

    閉じるはずの穴が閉じなかった、心房中隔欠損症 (Atrial Septal Defect: ASD)

    左右の心房の間に穴があいている病気です。比較的大きな穴があいていても心臓

    の雑音や疲れやすいなどの症状はほとんどなく、小、中学校の検診で偶然に見つかることの

    多い病気です。約2:1で女性に多く、大動脈二尖弁を除くと40歳以上の成人の先天性心疾患では一番多く、35-40%を占めます4

    図6のように心房中隔の穴を通じて、圧の高い左心房から圧の低い右心房に血液が流れ込み(ひだりみぎ短絡たんらく)、右心房・右心室の血流が増え、増えた分の血流はすべて肺に流れ、肺血流が増えます。ここからは、心室中隔欠損症と同じですね。

    図5:心房中隔欠損症のメカニズム図5:心房中隔欠損症のメカニズム

     

    左右の心房を隔てる壁(心房中隔)にはだれでも胎児のときには血液の交通があります(胎児循環)。赤ちゃんがおなかの中にいるときは自分で息をする必要がなく、お母さんからへその緒を通して酸素いっぱいの血液が、心房中隔の穴を通って、赤ちゃん自身の肺を素通りして体に赤い血が流れるようになっています。

    この穴は卵円孔らんえんこう)と呼ばれ、通常は生まれて数時間後には自然にとじて、ただのくぼみ(卵円窩)になってしまうのですが、心房中隔欠損では生まれたあともこれが穴として残っているのです。心房中隔欠損は卵円窩以外の場所に穴があいている場合もあり、場所によって4つに分類されています。

    あなの開いている場所により、二次孔欠損型(90%),一次孔欠損型(房室中隔欠損症 不完全型と同じ),静脈洞型(5~10%),冠静脈洞型(少ない)に分類されます(図6).

    図6:あなの開いている場所による分類図6:あなの開いている場所による分類

     

    小さい穴は1~2歳くらいまでに自然に閉じることが多いですが,みつかった時に10 mm 以上の穴をもつ場合にはほとんど自然には閉じません4

    穴のあいている位置や穴の大きさによって、病気の程度、症状出現の時期、治療の必要性・方法などが異なります。

    21トリソミーの合併が多い房室中隔欠損症 (心内膜床欠損症)(AtrioVentricular Septal Defect: AVSD)

    以前は、心内膜症欠損症と呼ばれていましたが、最近は世界的に房室中隔欠損症と呼ばれることが多いです。心臓の4つの部屋をへだてる弁と壁が真ん中で十字にクロスしているところの異常があります。

    これも心室中隔欠損症と同じでふつうはくっつき合うところがくっつかなかった病気です。心房中隔と心室中隔のつなぎ目の欠損なので、房室中隔欠損とよばれたり、左右の心房と心室の間の弁である僧帽弁と三尖弁がくっついてひとつになっているので共通房室弁口とよばれることもあります(図7)。

    21トリソミー(赤枠部分) 図7:21トリソミー(赤枠部分) Wikipediaより引用.

     

    心室中隔欠損を伴う完全型と、伴わない不完全型に分けられます。

    不完全型は一次孔型心房中隔欠損と呼ばれることもあります。房室中隔欠損症では房室弁(心房と心室の間の弁、すなわち三尖弁と僧帽弁のこと)の形も正常と異なり、通常は前尖と後尖の2枚の弁からなる僧帽弁では、クレフトとよばれる前尖の切れ込みが入って2つに分かれて3枚の弁からなるといった形の異常が見られます。

    完全型の約半数~2/3には21トリソミーを伴っています。ふつうの人の染色体は、ほぼ同じものが2本ずつペアになっていますが、21トリソミーでは、21番目の染色体が1本多く、3本あります(3本あることをトリソミーといいます)。別名「ダウン症候群」ともよばれます。

    逆に21トリソミーの患者さんの45%は完全型ないし不完全型などの先天性心疾患を合併しています5。またそれ以外の染色体異常や、無脾症候群、多脾症候群などに合併することがあります。 

    弁の不完全な形成と心房中隔欠損が合併しているもので、心室中隔欠損を伴うか伴わないかで完全型と不完全型に分けられます。どちらも症状が出やすく、早期からの手術が必要になることが多いです。

    図8:房室中隔欠損症のメカニズム図8:房室中隔欠損症のメカニズム

     

    風疹に注意!閉じるはずの管が閉じなかった、動脈管開存症 (Patent Ductus Arteriosus: PDA)

    前述したように、赤ちゃんは生まれるまでお母さんのお腹の中でへその緒から血液を送ってもらい、肺を使わずに育ちます。肺を使わない胎児特有の血液の流れを胎児循環といいましたね。

    この胎児循環にかかわる大動脈と肺動脈の間を結ぶバイパスとなっている血管を動脈管といい、胎児の間は血液の通り道として重要な血管ですが、生まれて間もなく不要になり自然に閉じます。この動脈管が閉じずに残っているものを動脈管開存症といいます。

    妊娠初期の風疹ウィルス感染は高い確率で動脈管開存をもたらします。(先天性風疹症候群)。妊活に入る前に風疹抗体価をチェックしておきましょう!女子中学生のみが定期接種の対象であった1962~1978年度生まれで、風疹にかかったことがない旦那さんは抗体を持っていない可能性があり、夫婦で確認しておいた方がいいでしょう。

    頻度は出生2500-5000人に1人(0.02-0.04%)であり、性差は2:1で女性に多いです6。動脈管が閉じないことで、その管を介して一部の血液が心臓と肺の間を空回りし、肺や心臓に負担がかかります(図9)。

    図9:動脈管開存症のメカニズム図9:動脈管開存症のメカニズム

     

    心不全がある場合、動脈管が閉じるまでの間、薬物による内科治療を行います。動脈管を閉じる治療としては、①開胸手術、②カテーテル治療、③胸腔鏡下手術があります。

    チアノーゼ性心疾患

    先天性心疾患の約3~4割を占めます。チアノーゼ性心疾患は、非チアノーゼ性心疾患に比べると、重症な病気が多いです。

    これは、同じ病気の症例が少なく最適な治療法がはっきり分からない場合があることや、チアノーゼ等の苦しい症状があること、より心臓の形が異常な状態のため手術が難しいことが理由として挙げられます。

    特徴的な症状として、体重の増加は比較的良いのですが、泣いたり、いきんだり、熱を出したりしたときに全身が紫色になり、危険な状態になることがあります。

    チアノーゼ性心疾患の種類は非常に多く、比較的頻度が多い順に、ファロー四徴症、完全大血管転移症、両大血管右室起始症について説明します。

    チアノーゼ性心疾患の中で一番多い、4つの特徴をもつファローちょうしょうTetralogy Of Fallot: TOF)

    1888年にフランス人医師ファローにより、チアノーゼを起こして全身の皮膚が青く見えるBlue Baby(青色児)と呼ばれた症例から報告された先天性心疾患の一つです。

    以下の4つの特徴は、たまたま合わさったのではなく、胎生期に心臓が作られる過程で、心臓の出口部分の大動脈と肺動脈の間、それを支える右心室と左心室の間それぞれのしきりがねじれ、その間に心室中隔欠損を生じて派生してくると考えられています。

      • ・右心室の出口から肺動脈にかけて細く(肺動脈狭窄
      • ・心室の壁に穴があり(心室中隔欠損
      • ・大動脈が右心室の方にずれて乗り出し(大動脈騎乗)、その結果、右心室に負担がかかって壁が厚くなる(右室肥大
      • 図10:ファロー四徴症のメカニズム図10:ファロー四徴症のメカニズム

         

      • 酸素をあまり含んでいない血液が心室中隔欠損を通じて全身に流れるため (みぎひだり短絡たんらくといいます)、チアノーゼが生じます。この疾患は、出生数1万人あたり2.8~4.1人の頻度(3600人に1人)でみつかり、チアノーゼが生じる先天性心疾患の中ではもっとも多いです。男女比は1:1で、性差はありません7

        肺動脈狭窄の程度によってチアノ-ゼの出方はさまざまで、人によってはほとんどチアノ-ゼがでない場合もあります。また、「無酸素発作」を何回も起こすような時は、「ベータ・ブロッカー」とよばれる種類の薬を内服して予防が必要なことがあります。

        治療は基本的には外科手術となります。

        手術は1)心室中隔欠損のパッチ閉鎖、2)肺動脈狭窄の解除(右室流出路再建)という二つのことを同じ手術のなかで行います。

        完全に大血管が正常と逆にくっついた完全大血管転位症(Transpostion of Great Arteries: TGA)
      • 大動脈と肺動脈の位置が正常とは逆の位置から出ている場合を完全大血管転位症といいます。つまり左心室から出るべき大動脈が右心室からでており、右心室から出るべき肺動脈が左心室から出ています。

        完全大血管転位症は、

        心室中隔欠損(−)⇒Ⅰ型

        心室中隔欠損(+)⇒Ⅱ型

        心室中隔欠損+肺動脈狭窄⇒Ⅲ型

        の3つのタイプに分けられています (図11)

        心房中隔欠損症や動脈管開存症も合併しやすいとされています。

    図11:完全大血管転位症の3つのタイプ図11:完全大血管転位症の3つのタイプ

    発生頻度は、0.05% (2000人に一人)とまれですが、新生児期にチアノーゼをきたすもの中では最も多いです。この疾患は約 2:1で男性に多いと言われています8

    完全大血管転位症のI型は生直後から チアノーゼ が強く、Ⅱ型ではチアノーゼは軽いものの多呼吸、哺乳困難,乏尿などの心不全症状が強く表れます。Ⅲ型は肺動脈狭窄が適度であればチアノーゼも心不全症状も軽度です。

    新生児期には、動脈管を開けるためにプロスタグランデインというお薬を使ったり、チアノーゼが強い場合には、バルーンカテーテルで心房中隔の穴を広げます。

    外科治療としては、Ⅰ型、II型では血管を入れ替える手術をします。Ⅲ型では幼児期に右心室と肺動脈をつなげる手術 (Rastelli手術) を行います。

    両方の大血管が右室からでる両大血管右室起始症 (Double-Outlet Right Ventricle: DORV)

    両方の大血管である大動脈と肺動脈が右心室の上から出ている(起始する)病気です。

    右心室と左心室の間には穴(心室中隔欠損)があり、その穴と大血管との位置関係、大血管の太さ、心室のバランス、合併する他の心臓や大血管の病気などから病態は様々です。それぞれの病態に合わせて治療法も異なります。

    そのほかに、三尖弁閉鎖症、総肺静脈還流異常症、右室性単心室症などの病気があります。

    まとめ

    ここで挙げた代表的な病気も、その程度や進行の仕方などは、そのお子さま一人一人異なります。また、二つ以上の先天性心疾患が重なっていることもしばしばあります。

    症状の程度や発現の仕方、実際の心臓の状態を確認するために、ていねいな診察、的確な検査を行い、その子に適したオーダーメイドの治療が選択されていきます。

    そのあたりは、また次回お話しさせていただきますね。

    以上

    当記事の執筆者

    高松ささき内科ハートクリニック 院長
    医学博士/総合内科専門医/循環器専門医
    日本大学医学部を卒業。国立循環器病研究センター勤務、大阪大学医学部で医学博士号を取得後、アメリカの名門ジョンズ・ホプキンズ大学付属病院での勤務等を経て現職。専門は心臓と血管。
    最寄駅:JR高松駅(香川県)徒歩10分強

    参考文献

    1.Hoffman JI. Incidence of congenital heart disease: II. Prenatal incidence.Pediatr Cardiol. 1995;16(4):155-65. doi: 10.1007/BF00794186.

    2.日本小児循環器学会. 2016年CHD・希少疾患サーベイランス調査結果 (2018.12.1確定版)

    3.Niwa K, Perloff JK, Kaplan S, et al. Eisenmenger syndrome in adults: ventricular septal defect, truncus arterious, univentricular heart. J Am Coll Cardiol. 1999; 34:223-232. doi: 10.1016/s0735-1097(99)00153-9.

    4.Geva T, Martins JD, Wald RM. Atrial septal defects. Lancet. 2014; 383: 1921-1932. doi: 10.1016/S0140-6736(13)62145-5.

    5.Meisner H, Guenther T. Atrioventricular septal defect. Pediatr Cardiol. 1998 Jul-Aug;19(4):276-81. doi: 10.1007/s002469900309.

    6. Schneider DJ, Moore JW. Patent ductus arteriosus. Circulation. 2006; 114(17):1873-82. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.105.592063.

    7. Apitz C, Webb GD, Redington AN. Tetralogy of Fallot. Lancet. 2009; 374(9699):1462-71. doi: 10.1016/S0140-6736(09)60657-7.

    8. Martins P, Castela E. Transposition of the great arteries. Orphanet J Rare Dis. 2008;3:27. doi: 10.1186/1750-1172-3-27.

    087-851-6688 WEB予約 LINE予約 WEB問診